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テレワークの2画面は、サブPCと「Mouse Without Borders」の組み合わせがベストだ! - PC Watch

Mouse Without Bordersを利用してLenovoの「ThinkPad X1 Yoga Gen4」をメインマシンにして、HPのWindowsタブレット「Spectra X2」をサブディスプレイ相当として使っているところ。どちらにもデスクトップが表示されている

 4月7日に発出されたCOVID-19の国内流行に伴う緊急事態宣言の影響で、多くのビジネスパーソンが自宅などでのテレワークやリモートワークという働き方を強いられているのではないだろうか。そうした中で少しでもPCを使って生産性を上げることがビジネスパーソンには要求されているが、そうしたときにディスプレイを1枚だけでなく2枚使いたいというニーズも少なくない。

 外付けディスプレイを追加できるのが一番ベストだと思うが、予算の都合でそれが難しいという場合には、古いPCやサブPCをセカンダリディスプレイにするのはいかがだろうか。

 その方法としては、別記事(余ったWindows 10ノートがサブディスプレイに早変わり!)で紹介しているような、Miracastの技術を利用したWindows 10の「接続」アプリを使うのも1つの手だが、別の選択肢もある。それが、今回紹介するMicrosoft Garageと呼ばれるMicrosoftの風変わりな研究開発部門が開発したソフトウェア「Mouse Without Borders」を利用する方法だ。

筆者のデュアルディスプレイ変遷

 ソフトウェアの説明に入る前に、筆者のPCのテレワーク環境でのテレワーク・デュアルディスプレイ遍歴について紹介しておきたい。現在は緊急事態宣言下でもあるし、各国とも外国人の入国を制限するという状況になっているが、そうなる以前の筆者の仕事は国内、国外問わず、取材に出かけていって、スポークスパーソンに話を聞いて記事を書いたり、イベントを取材してそのレポートを書いたりというのが中心だった(今はもちろん政府や地方自治体の要請通りに自宅待機をしており、自宅からオンライン会議などで取材してというかたちが中心になっている)。

 昨年の例で言うと、年の3分の2程度はホテルなどの出先暮らしということになっていたので、仕事効率を上げるという意味では、ホテルに宿泊しているときのPC環境やセカンダリディスプレイのソリューションにはこだわって機材を選定してきた。現在の環境に行き着くまで、以下のような進化を遂げてきた。

第1期:モバイルディスプレイ期

 一番最初に採用したのは、セカンダリディスプレイとしてモバイルディスプレイを持ち運ぶことだった。最初は確か13.3型フルHDのモバイルディスプレイを買って持って歩いていたのだが、ふと気がついてみると、ノートPCやタブレットとあまり変わらない重量を持って歩いているのにディスプレイにしか使えないのは、持ち物の重量を増やしているだけだなぁと気がつかされたことだ。

 それなら、タブレットとか、Surfaceのような2in1型をセカンダリディスプレイにしたらどうか、そうすると1つ持ち物を減らせるじゃないかという事実に気がついた。

第2期:iPad Pro期

 iPad Proを購入してからは、飛行機の機内でKindleやAmazon Primeなどのコンテンツ再生などにはiPadを利用していた。ホテルについてからは、Duet Displayという別記事(サブディスプレイが買えないなら「Duet Display」でタブレットを代用すればいいじゃない)で紹介されているiPadをPCのセカンダリ・ディスプレイにするソフトウェアを利用してきた。

 ところが、ある時からAdobeのPhotoshopなどのアプリケーションがDirectXのエラーが原因で起動しなくなった。その原因を調べていくと、Duet Displayが原因だとわかった。Duet Displayはディスプレイドライバ周りに追加のドライバをインストールするのだが、どうもそれが悪さをしているようで、Duet Displayをアンインストールすると直るという状況が常態になってしまった。半年我慢してアップデートされるのを待ったのだが、直らなかったので諦めることにした。

 Duet DisplayのようにPCのグラフィックスドライバに追加の何かをするタイプのソフトウェアは、どうしてもこういうトラブルからは逃れられない。ビジネスPCは安定性重視の筆者としては、この選択肢はないなという結論に至った。

第3期:Windows 10の「接続」期

 Duet Displayを諦め、今度は出張時のセカンドマシンとして持ち歩いているWindowsタブレットをセカンダリディスプレイにすることにした。Windowsディスプレイが便利なのは、キーボードを外してスーツケースに突っ込んでおけることで、普段はセカンダリディスプレイ的に使い、もし出張中にメインマシンが壊れたらスーツケースからキーボードを引っ張り出してきて、すぐにそちらに乗り換えて仕事を続行できる、そうした冗長性を実現できることにある。

 Windows 10の「接続」の使い方はこちらの記事(余ったWindows 10ノートがサブディスプレイに早変わり!)に詳しいのでそちらを参考していただくこととして、Wi-Fi Directという仕組みを利用する都合上、どうしても遅延が発生してしまう。とくに対象マシン側のキーボードやマウスなどを使う設定にするとそれが著しくなることだ。

 また、無線という不安定なものを利用する都合上、Wi-Fiの混信がひどくなると突然切れたりする。すると、セカンダリディスプレイ側に表示されていたウインドウがすべてメイン側に移動してきて「あ”あ”あ”」となってしまうことが繰り返された。

 一軒家などWi-Fiが安定している環境では使いモノになるが、ホテルの部屋や集合住宅などでは隣近所がみなWi-Fiを使っているような状況なのでなかなか難しいというのが筆者の評価だ。

IPの上で動くMouse Without Borders、Wi-Fiだけでなく有線でも利用可能な点も◎

Mouse Without Bordersを開発したMicrosoft Garageのオフィス(米国シアトル州レッドモンド)

 前置きは長くなったが、そうした第1期から第4期を経て、今は第4期へと突入している。筆者が選んだのが、今回紹介するMouse Without Bordersだ。

Microsoft Garageに掲げられているロゴ
オフィスの壁にはこれまでリリースされた成果が掲示されている。そのなかには「Mouse Without Borders」も

 Mouse Without BordersはMicrosoft Garageという、新しいかたちのアプリケーションを開発するMicrosoft部門が開発したソフトウェアだ。Microsoft Garageは本社があるシアトルのレッドモンドに本拠地が置かれており、これまでの常識を取っ払って、一見するとくだらないと思えるようなソフトウェアでも作ってみる、そうした実験的な取り組みを行なう研究部門として設立されたものだ。詳しくは米MicrosoftのWebサイトを参照していただきたいが、これまでにないかたちのさまざまなアプリケーションを開発して公開している。

 今回紹介するMouse Without BordersもそのMicrosoft Garageのエンジニアが開発したもので、サポートや保証などは提供されないがMicrosoft純正のソフトウェアだ。MicrosoftのWebサイトからダウンロードして利用できる。繰り返しになるが、未サポート、未保証だが無償で利用できる。

 導入は難しくない。それぞれのPCにMouse Without Bordersをインストールし(ただしインストールするには管理者権限が必要になる、企業のITにより管理されているPCでは管理者権限が与えられていない場合があるので、その場合にはIT管理者に相談する必要がある)、起動する。起動すると「Security Key」と呼ばれる共有鍵の入力を求められる。ローカルマシンとなるメインPCにインストールしたMouse Without Bordersの「Setting」画面に「Security Key」が書かれているのでそれを入力すると共有完了だ。

 Windows 10標準の「接続」が、Direct Wi-Fiという仕組みを利用しているため、Wi-Fi経由でしか接続できない(つまり有線LAN経由での接続はできない)のに対して、このMouse Without BordersはTCP/IPの上であれば動くようになっているので、回線が有線LANであろうが、Wi-Fiであろうが、極端な話VPNでインターネット越しにつながっていようが、同じローカルネットワークにIPで論理的につながっていれば利用できる。このため、動作はとても安定しており、筆者が使っている限りは、そもそもネットワークにつながっていないという根本的な問題を除けば安定性に不満を感じたことはない。

 ただ出張時などで注意したいのは、ホテルのWi-Fiなどに接続する場合だ。ホテルのWi-Fiはアクセスポイント側で、クライアント同士の通信ができないようにしている場合が多く(そしてその方がユーザーにとっては安全性が高い)、そのままでは通信できない場合がある。その場合には、メインマシンでホテルのWi-Fiに接続し、Windows 10の標準機能であるモバイルホットスポット(スマートフォン流に言うとテザリング)の機能を利用して2つめのマシンをメインマシン経由で接続するようにすると、Mouse Without Bordersが利用可能だ。

自動KVMスイッチとしての機能、複数のマシンでクリップボード共有、ファイルのコピーも可能

 このMouse Without Bordersで何ができるかと言えば、いくつかあるが、重要な点を上げると、以下の3つになる。

(1)ローカルマシンのキーボード、マウス/ポインティングデバイスで、2つめのディスプレイにするマシンを操作できる
(2)マウスカーソルはマシンを飛び越えてワープできる(マウスカーソルを移動するだけで操作するマシンを切り替えることができる)
(3)「Share Clipboard」オプションを利用するとクリップボードの内容を共有できる(つまり複数のマシン間でコピペできる、ファイルのコピーを含む)

 以下、動作をイメージしてもらうために、この記事冒頭の写真のように左側にメインマシンとなるノートPC、右側にWindowsタブレットがおかれており、それぞれイーサネットで2つのマシンがつながっており、Mouse Without Bordersが導入されているとする。

インストール後はタスクトレイの通知領域に表示されているMouse Without Bordersの設定ツールで設定可能
設定画面、ワープ設定(Warp Mouse)は標準では外れているが、これをオンにしておくと右からでも左からでもマウスカーソルが移動できるようになるのでお薦め

 普段はメインマシンとなるノートPCで作業をしていて、セカンダリマシンとなるWindowsタブレットでWebブラウザを開いて調べ物をし、その結果となったURLをコピーしたいという使い方があるだろう。そうした時にはマウスカーソルをメインマシンの画面の右端ないしは左端にもっていき、画面の外に向かってカーソルを移動する。そうすると、カーソルはWindowsタブレット側に移動し、メインマシン側のキーボードとマウスで操作できる。サブマシン側でWebブラウザを開いて、検索してという作業がすべてメインマシン側のキーボードとマウスで操作できるのだ。

 言ってみれば、KVM(Keyboard, Video and Mouse)スイッチの代わりとしても使えるのだ。しかも、切り替えはマウスカーソルを移動するだけだから、自動KVMスイッチと言って良い。

マウスカーソルがワープしてメインマシンのキーボード・マウスでWindowsタブレットを操作できる

 検索が終わって、その結果をメインマシンで開いているWordにコピーしたいとする。そうすると、普通にサブマシン側でコピー(Ctrl+Cを押すか、マウスの右クリックから表示されるコピーを選択)を行ない、メインマシン側にマウスカーソルを戻して(同じようにサブマシン側の画面の端からちょっと移動するだけで戻れる)、ペースト(Ctrl+Vを押すか、マウスの右クリックから貼り付け)を行なえばコピー完了だ。

メインマシンのキーボード、マウスを利用してサブマシンのWebサイトの記述をコピー

 コピーできるのは何もテキストだけではない。ファイルそのもののコピーも同じようなやり方でできる。セカンダリマシンで開きたいファイルがメインマシンにあったとする。その場合には、上記と同じ方法でファイルをメインマシンでコピーする(Windows的にはこの行為をクリップボードに入れるという)。そして先ほどと同じようにマウスカーソルをセカンダリマシンにワープする。そうしてファイルをコピーしたい場所でCtrl+Vを押すか、マウスの右メニューから「貼り付け」を選べばコピー完了だ(Windows的にはクリップボードからペーストするという)。

マインマシンのキーボード、マウスを利用してメインマシン上のファイルをコピー

 テレワークなどでセカンダリディスプレイを利用する用途のほとんどがWebブラウザを開いて検索をしたり、PDFやPowerPointの表示を行なうことなのでほとんどのニーズはこれで満たせるだろう。

 なお、Mouse Without Borders自体は、2台だけでなく、3台、4台と台数を増やしていくことができる。たとえば、左右にWindowsタブレットを置いて、操作するという使い方も可能だ。

より高度な使い方をしたいならファイルはクラウドストレージに置いて同期ツールで同期がベスト

 すでに述べたとおり、Mouse Without Bordersはファイルそのもののコピーも可能で、それで便利なのだが、ファイルを無制限にコピーしていくというのも、情報の管理ということを考えるとあまりスマートなやり方とは思えない。1つ、2つを一時的にコピーするぐらいの使い方ならいいと思うが、あまりに多くのファイルをセカンダリマシンのデスクトップに置いておくというのは情報の管理という観点からどうかと思う。

 筆者は、自分のビジネスに使うファイルはすべてMicrosoft 365を契約して使っているOneDrive for Business上に置いている。OneDriveの同期ツールは、すべてないしは一部のファイルをローカルのPCにキャッシュとしてコピーすることも可能だし、「ファイルオンデマンド」という機能を利用して、ローカルのWindowsマシンからはファイルの情報だけを表示させておいて、実際に使う時にクラウドからダウンロードして使うという使い方ができる。このため、メインマシンではすべてのファイルをキャッシュしてつねに同期するように設定しておき、サブマシンではファイルオンデマンド状態にしてある。この使い方にしておけば、ストレージが小さなWindowsタブレットでも十分実用になる。

 OneDriveで運用することの利便性は、Officeファイルを両方のマシンで開いて編集してもそれぞれのデバイスでの編集ポイントがクラウド上のファイルに両方ともに反映されることだ。たとえば、PowerPointの資料をメインマシンで編集していても、若干のタムラグはあるが両方の編集結果が反映されて保存される。これはOneDriveの同期ツールがOfficeアプリケーションと連携しているメリットで、そうした使い方をしていれば、前出のようなローカルネット越しのコピペは必要なくなるのでお薦めだ。

 以上のようにMouse Without Bordersは2つのマシンをWi-Fi、有線LANなど物理的な接続手段とは関係なくIPベースで接続することができ、安定性は抜群だ。しかも、(保証はないが)Microsoft自社製の無償ソフトウェアだけでこれが実現できるということもあり、安心感もある。その意味でも、ノートPCなどが2台あるけど2台目がうまく使いこなせていないという悩みを抱えているユーザーであれば、ぜひとも試してみて欲しい。

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