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【コラム】トニー・アイオミは、なぜだかブライアン・メイと仲が良い - BARKS


トニー・アイオミが、本日2020年2月19日(水)にめでたく72歳の誕生日を迎えた。

1970年にブラック・サバスのギタリストとしてデビューし、それから半世紀。波乱万丈すぎるサバスも無事に最終公演を終え、ライブやツアーの喧騒から離れたアイオミは現在、たまに講演会なんかに出席したり、クリスマスにはサバス・クリスマス・セーター(ダサい)を着て動画を撮ったりしつつ、穏やかに暮らしているようだ。

ところでこの間、ブラック・サバスのデビュー50周年を祝う記事を書いたとき、「さすがにビル・ワードを金色に塗って病院送りにした話はダメだよなあ」と思って記事を修正したのだが、デビュー日である2月13日、アイオミのTwitterアカウントがリツイートしていたのは、「ビルを金色に塗ったら倒れちゃった」というエピソードを語るご自身のインタビュー動画だった。なんというピンポイント。

さて、そんな彼は2000年に、“曲ごとにヴォーカルが変わる”という特徴を持つ自身初のソロアルバム『IOMMI』をリリースした。正確に言えばソロアルバムは実質2枚目なんだけど、そこらへんは大人の事情というやつだ。なお、「サバス自体実質アイオミのソロじゃん」は禁句である。

『IOMMI』は現在、新品がちょっと手に入りにくいアルバムなのだが、なかなかの良作と評価されている。オムニバスっぽい印象はあるが、その分いわゆる「捨て曲」が無く、どの曲もメロディアスで洗練されている。サウンド面でも透明感があり、現代的で聴きやすい。ただ、「作曲家としてのアイオミ」を全面的に出した作品なので、「ギタリストとしてのアイオミ」「ブラックサバスのコンセプト性」を期待して聴くと肩透かしを食らうかもしれない。

アルバムに参加したメンバーもなかなか豪華だ。オジー・オズボーンとビル・ワードが参加した曲があるのも良い。女性ヴォーカル曲があるのもソロアルバムならでは。故ピーター・スティールも参加しているし、アルバムの最後を締めくくるのはビリー・アイドル。それで良くならないわけがないよね。

で、このアルバム。前述の通りオムニバスっぽい作りなので、人によって楽曲ごとの好みが分かれるのだが、私が特に好きなのは3曲目に収録された「Goodbye Lament」だ。

何故ってこの曲、まず演奏している顔ぶれがすごい。メインアーティストは当然アイオミ。そしてヴォーカル&ドラムはデイヴ・グロールが務めている。この時点で既に神々の戯れ感あるんだが、さらにアディショナルギターとしてブライアン・メイも登場。ちなみにブライアンは同アルバム内の「Flame On」にも参加している。

「Goodbye Lament」は静と動が明確に対比され、かつ結びついて離れないメランコリックなロックバラードだ。深夜、肩で風を切りながら誰もいない町をコツコツと歩いていくような、硬質かつ色気が漂うテンポ感。それに乗せて酩酊感のあるリフとメロディが漂う様は、たまらなくアングラ心を擽ってくる。遠いハイウェイを駆け抜けるサイレンめいたSEが曲間を縫い、緊迫感とともに音楽の空間を押し広げるのも美しい。

ところでこの曲、ちょっと変な特徴を持っている。何って、名ギタリストがふたり参加してるのに、ギターソロが無いのだ。

これはブラック・サバス的にもクイーン的にも珍しい特徴である。サバスはギタリストを中心としたバンドなので言わずもがな。クイーンは何だかんだ言ってギターソロが“完全に無い”曲は多くない。さらに、「Goodbye Lament」にはギターが“合いの手”を入れる場面も無いので、はっきり言って「どうしてこの曲にギターふたりも入れたの?」という感じすらする。

アイオミとブライアンは1970年代から仲がよく、共演も多いし、お互いのSNSにもよく登場する。この間は「僕たち結婚について話してる」とのインパクトあるジョークとともにツーショット写真が投稿され、世界中のメタラーの腹筋を崩壊させた。ところで、あの投稿についたコメントを読むと「どこの国のオタクも語彙力は一緒なんだな」って感じで興味深いので、ぜひのぞいてみてほしい。

しかし、じゃあ何故このふたりが親友かって、それはなかなか謎な話だ。「自分とはタイプが正反対な友達」というのは誰にだってひとりはいるが、それにしたって極端だ。「どうして仲いいの?」と思ってアイオミの自伝を読むと、むしろ謎は深まる。いやその、アイオミに限らずブラック・サバスの面々はやんちゃが過ぎる(最大限ぼかした表現)というか。

音楽性でも、緻密に楽曲を仕上げ、組木細工のようなコーラスを丁寧に施すブライアンと、その場その場のフィーリングでソロを弾き、経験と霊感で曲を作るアイオミとでは正反対。ギターのサウンドだって、天から降り注ぐような音と、地響きのような音とで対照的だ。

まあ、考えてみればおふたりは「自分の手が弾くためのギターを作った男」と「ギターを弾くための指を自分で作った男」なわけで。それが出会い、さらには仲良くなって、一緒に曲を作ったなんて、まさに“事実は小説より奇なり”である。

ここまで個性が相反すると、何ひとつ合わないか、なぜだか合うかの2択だ。そして、彼らの場合は後者だった。いくつかあるアイオミとブライアンの共演音源を聴くと、互いの弱点や鳴りにくい音域をカバーし合い、質量のある音の壁が作り出されていることがわかる。ふたりが使っているギターはどちらも特注品(特注品というかなんというか)なわけだが、音を重ねると、最初から2本で弾くことを前提として設計されているかのように合う。

それだけではなく、彼らは間の取り方やフレーズ感といった演奏のニュアンスがよく似ている。つまり、互いに神経質にならず、肩の力を抜いていてもアンサンブルが成立するのだ。だから、アイオミはちょくちょく「ブライアンめっちゃうまい」「一緒に弾くのとっても楽しい」と語る。

そういうことを踏まえ、改めて「Goodbye Lament」を聴くと、同曲のギターサウンドは「ここがアイオミ」「ここがブライアン」と分離しないように作られていることがわかる。つまり、相反する個性同士が絡み合うことによって生まれる「さらに強力な個性」を聴かせているのだ。そうなると、ギターソロや合いの手なんて必要なくなる。“技術”とは、巧みなソロや複雑なコードを弾きこなすことだけに対して言うものではないのだ。

さらに、「Goodbye Lament」は歌詞がめちゃめちゃ良い。初っ端で「俺のために祈ってくれ」と語り掛けてリスナーを惹き寄せ、意味深な単語を続けて、楽曲の深部へ引っ張りこんでいくセンス。おそらくこの詞はデイヴ・グロールの意匠が大半なのだが、聴かせ方がすっごく上手い。

詞の内容は“苦痛”を“おまえ”と呼び、「一緒に踊ろう、一緒に眠ろう」「おまえは最高だ」と語り掛ける感じになっている。まあそれ自体は、ただただメタラーが好みそうな題材というだけだ。一般的に忌み嫌われる対象を仄かに賛美するのは、メタルの歌詞のスタンダードのひとつである。サビ部分で「幼さ(Innocence)は死んだ」「信仰なんかもういらない」的なことを言うのも、いかにもメタルっぽい。

ただこの歌詞、ちょっとだけ謎なところがある。それはタイトルにも使用され、サビで繰り返される“Goodbye Lament”という表現だ。だって、「苦痛よこんにちは、おまえ最高」して一緒に踊ったり眠ったりしているならば、「Lament(嘆き)」は「Goodbye」するものではなく「Hello」するものなのではなかろうか。どうしてそこだけほんのり前向きなんだ。

「Goodbye Lament」は、苦痛を味わった“俺”が悲しみを乗り越え、現実を見つめ、大人になる様子が描かれた曲だ。しかしもう少し深く読むと、冒頭で「記憶の中で」と言っているので、楽曲の主人公の“俺”は既に大人であることがわかる。だからこそ「苦痛」に対して「一緒に眠ろう」「踊ろう」と大人の対応ができているのだ。

これ、言ってしまえばよくある主題なんだが、「トニー・アイオミ初のソロアルバムの収録曲」と考えると面白い。何故ってアイオミは10代の頃、労働事故で指先を切断している。その苦痛と逆境を乗り越えて、ハンデを唯一無二の個性に昇華させる手腕は、まさに「苦痛よ、おまえは最高だ」「一緒に踊ろう」という歌詞とよく似合う。

また、「幼さは死んだ」「信仰はいらない、もう信じるものか」というのは、「泣いてなんかいられない」「神に祈るだけでは始まらない。現実だけを見つめる」という決意表明に聞こえる。さらに後者は、神に祈りつつも根底にリアリズムを持つブラック・サバスの指針ともよく似合う。ついでにこの「信仰」という部分、“ニルヴァーナ(仏教用語で「涅槃」)”のメンバーだったデイヴが歌っているのもなかなか。

つまりこの曲、「(アルバム発売当時の)50代になったアイオミが、10代の頃に怪我の苦痛と絶望から立ち直った経験を回想している曲」と考えると、いろいろ辻褄が合うのだ。そうすれば、「悲しみよさようなら(Goodbye Lament)」も、単なる「メソメソしてられない」ではなく、「逆境をバネにしてやる」という決意表明になる。この曲は、幼さを捨て、嘆き悲しむのをやめ、自らの“忌まわしい運命”を受け入れてギタリストとして立ち上がる彼の生きざまを描いているのではなかろうか。

そんな激情の背後に流れるのは、時の流れのように不可逆で、粛々とした無情なリフだ。普段よりも密度が上がったダークでヘヴィなサウンドは、アイオミが理想に掲げる“音の壁”そのもの。しかしそこには「希望」を象徴するかのようなブライアンの音色が混ざり、一筋の光が差し込んでいる。

……などと言ってみるが、これはあくまで筆者の解釈だ。実際のところ、何を意識して作詞されているのかは(筆者の知る限りでは)提示されていない(ので、何か見つけたらぜひ教えてください)。アイオミは「デイヴめっちゃ気合い入ってたな~」的なことしか言ってなくて、なんというか、アイオミだなあという感じがする。

こういう場合には、何を言っても正解だし、何を言っても不正解だ。なので楽曲を聴く際には、「BARKSにはこう書かれてたけど、ホントか?」と疑ったほうが良い。音楽を聴くときは、「私の解釈以外ぜんぶウソ」「私がイイと思ったら世界一イイ」くらいの強い気持ってほしい。

それにしても、“トニー・アイオミ×ブライアン・メイ×デイヴ・グロール”という顔ぶれは壮観だ。この3人は皆、自らのバンドでひとつの時代と流行を作り上げた男たちであり、大きな喪失や絶望を乗り越えた人物たちでもある。そんな彼らが作った曲が“Goodbye Lament”だというのも味わい深い。

さて、今日で72歳になったアイオミは、まだまだブライアン・メイと遊び足りないようで、コラボアルバムの制作を進行中だという。どのくらい作業が進んでるのかは見えてこないし、コラボアルバムの話自体は5年くらい前からあったので、いつ出てくるのかもわからない。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の例があるので、総制作期間15年コースも視野に入れよう。

しかし、アイオミが楽しんでいるならば、どれだけ長引いても、そして出て来たものがどんなものでも良いと思うのだ。いや、わがまま言うなら今すぐ聴きたいし、いいヴォーカリストを呼んでフルアルバム作ってほしいけど。ただ、気の置けない親友とともに物を作る時間は、きっと大切なものだから。

今年もアイオミ先生に、たくさんの楽しいことが起こりますように。

文◎安藤さやか(BARKS編集部)

■アイオミ&メイ 意外と多い共作まとめ

『ヘッドレス・クロス』(1989)
概要:ブラック・サバスのオリジナルアルバム
入手難度:ちょっと厳しい
収録曲「When Death Calls」にブライアンがソロ参加。

「Rock Aid Armenia」(1989)
概要:チャリティープロジェクト。他にもいっぱい参加
入手難度:たぶん厳しい
ロジャー・テイラーも参加している。

<フレディ・マーキュリー追悼コンサート>(1992)
概要:フレディ・マーキュリーに捧げるコンサート。
入手難度:とてもかんたん
アイオミがサブギターで参加。サブって何だっけ。

『IOMMI』(2000)
概要:アイオミの1stソロアルバム。
入手難度:そこそこ
収録曲「Goodbye Lament」「Flame On」にブライアンが参加。

※この他、サバスのライブにブライアンは何度か出演している。
……が、マニア曰く写真や映像がぜんぜん無いらしい。


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