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『マリオカート ライブ ホームサーキット』はまさしく「夢のようなゲーム」、あるいは「クリエイティビティあふれる遊び」、もしくは「富豪向けの娯楽」 - IGN JAPAN

dihyangbagus.blogspot.com

自分の部屋でラジコンのマリオカートが実際に走り回り、それをNintendo Switchでゲームとして楽しめる! まさしく『マリオカート ライブ ホームサーキット』(以下、『ホームサーキット』と表記)は夢のような作品だ。そして、そのおもしろさを引き出しきるのはまさしく夢のようで、実現するのが困難なようにも感じられた。

ラジコンのカートにはカメラがついており、ゲートを設置して読み取れば部屋のなかにサーキットを作り出せる。そして、それをNintendo Switch越しに遊ぶのが『ホームサーキット』の基本概要だ。テーブルの下を走らせることもできれば、猫が障害になることもあるだろうし、どんなコースを作るのかも思いのままである。

AR(拡張現実)、ラジコンカー、そしてビデオゲームといった技術のハイブリッドとなっている斬新な『ホームサーキット』は非常に魅力的で、触り始めたときの私は興奮していた。そしてしばらくあとに「あ、これしっかりと楽しむの無理じゃん」と気づいてしまった。

必要な家の広さは想像以上、理想は宴会場

IGNのレビューにも書かれているが、家が広くないとそもそもレースができない。『ホームサーキット』ではラジコンについているカメラで各ゲートを読み込んで周回を判定するため、ゲート間の距離が狭すぎるとカメラに映らずうまくいかないわけだ。

推奨環境は6帖以上だが、広ければ広いほどよいのは言うまでもないだろう。私は倍近いサイズのスペースを用意したが、それでもレースをする場合は狭く感じてしまう。置いてある家具との兼ね合いも重要で、50ccなどの低速モードの場合は夏用のカーペットでもマリオが立ち往生してしまい、逆に200ccなどの高速レースになるとその問題は解決するが今度は速すぎて直線距離が足りなくなってしまう。

また、壁があるとNintendo Switchとラジコンの通信をさえぎってしまい、ラグが発生したりゲームが進行不能に陥る。理想をいえばただ単に広いだけでなく、宴会場のような場所が求められているわけだ。

はっきりいって日本の住環境を考慮しているとは思えない作りだが、実際に本作はニューヨークのVelan Studiosによる提案から産まれた作品なのである程度は仕方がないのかもしれない。

家の広さの次は“クリエイティビティ”が必要

仮にスペースが確保できたとしても、もうひとつ難関がある。それはコース作りだ。あなたが急に「マリオカートのコースを作ってください!」と言われたとして、何かアイデアが浮かぶだろうか? たいていは難しいだろう。

それこそ『スーパーマリオメーカー』のような2Dアクションのコースを作って楽しむ作品にしても、なかなか容易なことではない。ましてや「マリオカートのコースはどうすればおもしろくなるのか?」なんて考えたとしても参考にするものが少ないし、『スーパーマリオメーカー』と異なりゲーム側がいろいろと教えてくれるわけでもないのだ。

私は最初、丸いコースを作った。当然すぐ飽きる。次は8の字にした。これも簡単すぎるだろう。続いては8の字をアレンジしてキツいカーブを設置し、さらにローテーブルの下を通るようなコースにした。悪くないがまだシンプルすぎる。じゃあ次は? どうすればいいのだろうか? まったくわからない。

 
コースを作る際に使うゲート。基本はこれを4つ置くだけでコースになるが、どう走らせるか、ほかにどのような障害物を置くかも重要となる。矢印のものは案内板。

幸いなことに、先行レビューをしているメディアにコースづくりのポイントをまとめた記事があったり、任天堂の公式トピックスにもヒントが載っている。しかし、「これをすればまずおもしろくなる」という話はほとんどない。プレイヤーごとに環境も大きく異なるだろうし、そもそも「マリオカート」のコース作成のノウハウがあまり言語化されていないのかもしれない。

唯一わかるのは、イラストや小物でデザインにも凝る必要があるということ。単純に走るコースをおもしろいものにするだけでなく、見た目も華やかにしていけばより楽しくなる。むしろ走ることそのものよりも、コースづくりが『ホームサーキット』の楽しさにおいてかなり重要かもしれない。もはや本作は、プレイヤーの裁量が大きすぎる『マリオカートメーカー』といえる。

すでに『スーパーマリオ64』をイメージしたコースを作っている人などもおり、それは非常に魅力的に仕上がっている。しかし狭くなってしまいレースを楽しむには難しい状態であったりと、ビジュアルとしてもコースとしても魅力的なものを作るのは容易ではないのだろう。

任天堂公式による『ホームサーキット』のコース。打ちのめされるほどクオリティが高い。画像は任天堂トピックスより。

任天堂の公式サイトでは、初代『スーパーマリオカート』のコースをモチーフにサーキットを作っている。これはある意味で究極のお手本だ。ここで『ホームサーキット』をプレイしたらどれほど楽しいだろうか。そして、ここまで素晴らしいものを誰もが作れるだろうか?

残念ながら、答えは「難しい」となるはずだ。やはり、本作にはそれなりのクリエイティビティが求められるわけである。

『ホームサーキット』のおもしろさはまさしく夢のよう

「マリオカートに出てくるバナナの皮」をリアルで作ってみたが、でかすぎる・熟しすぎている・あまりにも本気の妨害すぎるの3拍子で不採用に。

当然ながら、アイデアがあれば狭い部屋でもうまく『ホームサーキット』を楽しめる可能性はある。本作はただレースするだけではなくフリーランモードもあるので、たとえば「ふうせんバトル」のような遊びも再現可能だろう。

とはいえ、部屋が狭ければ狭いほど作れるコースのバリエーションは減る。制約が多い状態でおもしろいコースにするのはより難易度があがるわけだ。ましてや「マリオカート」といえばアイテムありのレースによるカジュアルな対戦がおもしろいわけで、やはり本気で走りたいのが正直なところである。

まず広い家がほしい。そして「マリオカート」のコースを作れるクリエイティビティもあったほうがいい。……いやいや、『ホームサーキット』を最大限楽しむハードルはかなり高いのではないか。

もちろん、私も『ホームサーキット』を遊び始めたときはおもしろく感じた。ゲームプレイは新たな可能性を感じさせるし、ラジコンを操作しているとは思えない手に馴染む操作もいい。音楽やエフェクトも抜かりないだろう。しかしながら、技術的な課題やプレイヤーが用意すべきものが多すぎるのではないか。

そもそも場所とコース作成能力をクリアしたとしても、1台1万円以上の『ホームサーキット』とNintendo Switchが人数分必要なうえ、そのどちらも記事執筆時点では品薄で入手しづらいわけだ。

私の偽らざる気持ち

現実的なところでは、Nintendo Switchと『ホームサーキット』をすでに持っているプレイヤーたちが持ち寄って公民館なり会議室を借り、作るコースのアイデアもあらかじめまとめておいて、設営していざプレイする形式になるだろう。しかし昨今の状況を鑑みるに、それもたやすいことではない。

ただ自宅で遊ぶのであれば、『ホームサーキット』はもはや「クリエイティブな富豪向けの遊び」だとすらいえる。本作は、まさしく夢のようなゲームだ。本当に夢のようで、そのおもしろさはなかなか手が届かないもののように思える。


渡邉卓也(@SSSSSDM)はフリーランスのゲームライター。『ホームサーキット』の関連商品としてダンボール製の「コース作成キット」的なものを売ってほしい。

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